(15) ピエタ
スターバト・マーテル・ドロロサ(Stabat marter dolorosa)の言葉で始まる聖歌は、多くの人々に親しまれてきた。多くの作曲家たちは、16世紀から20世紀へと、長い歴史を刻んできた。――パレ ストリーナ(16世紀)、ヴィヴァルディ(17世紀)、ベルゴレージ(18世紀)、ハイドン(18世紀)、ロッシーニ(19世紀)、ドヴォルザーク(19 世紀)、プーランク(20世紀)、ペンデレツキ(20世紀)などなど。そして、このセクエンツァ(続唱)は、「哀しみの聖母は立っていた」の意を伝えてく る。
質問の「ピエタ」は、この哀しみの聖母を表現した一つの図柄で、キリスト教図像学は、ピエタ像が現れる以前からの「聖母の哀しみ」を定めていた。14世 紀~15世紀末にかけて、それは「七つの喜び」、「七つの哀しみ」として、14の数字になった。14に及ぶ出来事は、聖母マリアが現れる重要な場面とし て、歴史的、崇敬的の意味を持ち、美術の上で表現されてきた。
「七つの喜び」は省略し、「七つの哀しみ」のみを提示する。
1)シメオンの予言
2)エジプトへの逃亡
3)聖殿にイエスを探す
4)十字架を担うキリストとの会合
5)磔刑
6)十字架降下
7)キリストの埋葬
上記5)、6)、7)、つまりキリストの死に伴う聖母の哀しみは、聖母の同感受難(コンパッシオ)として表現されてきた。このコンセプトの内に「ピエタ」 が現れたことは自然な事といえるだろう。だが、例えば、6)十字架降下の画が縦型であるのに対して、ピエタは横型であることを、図像学は明示している。
カトリック信徒たちは、そこから進んで、更に重要な主題を理解していくことになる。それは「ロザリオの十五玄義」だが、その説明もここでは省略しよう。ただ、「ロザリオの祈り」が、「主の祈り、聖母マリアへの祈り、栄唱」の三つから成ることだけを、記しておきたい。
「哀しみの聖母(mater dolorosa)」の表現図の中に、ヴェスペルビルト(ピエタのドイツ語、Vesperbild)が入ってきたのは13世紀の終わり頃、ドイツのケルン においてだった。14世紀に入って、この像はドイツでは盛んに作られた。このヴェスペルの意味は、聖務日課の中で、数えて7番目の晩課の名称であり、ヴェ スペルビルトは、やがて、ラテン語系のイタリア人によって、ピエタと名づけられることになった。イタリア、フランスでは14世紀から15世紀にかけて、こ の像は多く作られたが、ただ、この時期は、ルネッサンス以降とは違い、絵画よりも彫刻に多くの作例を見ることができる。
したがって、質問にある、中世の作品とは言っても、5世紀から始まる約1000年の期間(歴史学が区分する中世)の中で、作品の多くは近世に近い時期から、近世を経て、今日に到るまでの間に多くが創られていった。
しかし、フランスでは「アヴィニヨンのピエタ(1455年、ルーヴル美術館)」以前には、殆んど作例を見ることができない。
一つの例示。僕がしばしば訪れたシャルトルの聖堂は、フランスに数多い「聖母マリアの家(ノートル・ダム・カテドラル)」の中でも、パリと並ぶ歴史を誇っ ている。だが、大火災のあと、ゴシック建築として再現したのが13世紀であるため、「ピエタ像」を、この聖堂内では見ることができなかった。有名なステン ドグラス芸術は、その殆んどが聖母マリアに関する事柄であるが、ピエタが無いということに、僕は初めの頃、驚きを覚えたものだ。
「ピエタ」の作品例を下に示そう。
ミケランジェロ「ピエタ」 1498年 - 1500年 彫刻 (聖ペトロ大聖堂、ローマ)
シャロントン 「アヴィニヨンのピエタ」1455年頃(ルーヴル美術館)
作者不詳 「イエスの死を嘆くマリアと題されたピエタ」 1464年、板画(ルーヴル美術館)
シントヤンス 「キリストの哀悼」1484年、油彩(ウィーン美術館)
ベッリーニ 「ピエタ」1460年、テンペラ(Pinacoteca di Brera美術館、ミラノ)
カラッチ 「ピエタ」1599年頃、油彩(カポディモンテ宮殿美術館、ナポリ)
ボティッチェリ 「死せるキリストの哀悼」 1492年頃、板 テンペラ(ポルディ・ペッツォーリ美術、ミラノ)
作者不詳 「ピエタ」1164年(聖パンテレイモン教会、マセドニア共和国、ネレジ)
リーメンシュナイダー 「嘆き」1510年 リンデンバウム木製 彫刻
作者不詳 「哀しみの聖母」 1230年頃 木製彫刻 (北ドイツ)
作者不詳 「ピエタ」 14世紀中頃 (スタイグ、ドイツ)
マルエル 「ピエタ」 13世紀頃 (ルーヴル美術館)
ドラクロワ 「ピエタ」 1843~44年 油彩 ワックス (サン=ドニ・デュ・サン=サクルマン聖堂壁画、パリ)
ゴッホ 「ピエタ(ドラクロワの模写)」1889年 油彩(Rijksmuseum Vincent van Gogh, アムステルダム、オランダ)
わが国に珍しい「ピエタ」のレリーフ板がある。徳川時代に使われた「踏み絵」だが、この金属板の図柄は単純な「聖母とキリストの図」となっている。東京国立博物館の所蔵品。
- 編集日時:2012/1/16 08:39:21
- 回答日時:2012/1/16 01:54:37
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